「火災保険を使えば、
自己負担なく屋根や外壁を修理できますよ」——訪問業者や電話でこう言われたことはありませんか。
この勧誘は、全国の消費生活センターに相談が殺到している商法です。 全国の消費生活センター等に寄せられた相談(PIO-NET)は2020年度に5,447件まで増え、
国民生活センターは2018年以降3回の注意喚起を出しています。
日本損害保険協会の注意喚起ページは2026年7月にも更新されており、いまも続いている問題です。
そして相談者の8割近くが60歳以上、勧誘の88%が訪問販売です。
火災保険が使える場合は、確かにあります。
ただし条件があり、勧誘の言うとおりにするとあなた自身が詐欺の共犯になる危険すらあります。順番に説明します。
使える場合と、使えない場合の線引き
火災保険は「事故による損害」を補償するものです。時間の経過による傷みは「事故」ではないので対象外です。
| 対象になる | 対象にならない |
|---|---|
| 風災:台風・突風・竜巻で瓦が飛んだ、雨どいが壊れた | 経年劣化:色あせ、チョーキング、ひび割れ、シーリングの痩せ |
| 雹災:雹で屋根や外壁がへこんだ | さびによる損傷 |
| 雪災:雪の重みで破損した | 施工不良によるもの |
日本損害保険協会は、はっきりこう説明しています。
「自然の消耗もしくは劣化または性質によるさびなどによって生じた損害はお支払いの対象とはなりません」(日本損害保険協会)
つまり「外壁塗装をしたい」という理由で火災保険は使えません。 塗り替えは経年劣化への対応だからです。
台風で実際に壊れた箇所の修理費が対象になるだけです。
さらに、同じ台風でも洪水や高潮による被害は「水災」という別の補償になります。
水災補償を付けていなければ支払われません。
業者が「20万円」を気にする理由
火災保険の自己負担の決め方には2種類あります。
近年の契約は「免責金額(自己負担額)方式」が主流ですが、
以前からの契約や一部の商品では「20万円フランチャイズ方式」が使われています。
この方式では、
- 損害額が20万円未満 → 保険金はゼロ
- 損害額が20万円以上 → 全額支払われる
この「20万円の壁」が、悪質業者の動機になっています。
壁を超えさえすれば満額出るので、損害を大きく見せる誘惑が働くのです。
ご自身の契約がどちらの方式かは、保険証券で確認できます。
実際、国民生活センターの資料には次のような事例が記録されています。
- 工務店が、壊れていない瓦を外す細工をして「黙っているように」と指示した
- 約260万円の見積もりに対し、保険会社の査定は14万円だった
いちばん怖いのは「あなたが共犯になる」こと
ここが最も重要です。
虚偽の理由で保険金を請求すると、詐欺罪に該当する可能性があります。
そして——業者が瓦を割ったり損害を偽ったりしていることをあなたが知っていた場合、保険金詐欺の共犯になり得る、
と弁護士は指摘しています(東京海上日動サイト)。
「業者が勝手にやったこと」では済みません。請求するのは、業者ではなく契約者であるあなただからです。
同じ弁護士は、この種の業者の実際の作業は1日で終わる程度の内容だとしたうえで、
「保険金を狙って高額な手数料をとるビジネスモデル自体が悪質」と指摘しています。
手数料は保険金の30〜40%、5割の業者も
「申請サポート」「請求代行」をうたう業者の手数料は、保険金の30〜40%が多く、5割を取る業者もいます。
- 日本損害保険協会が紹介する事例:完全成功報酬型で30%(保険金100万円なら30万円)
- 国民生活センターの事例:30%、35%、5割を請求されたケース
- 弁護士の解説:「支払われた保険金の5割も取る業者がいる」
そして解約しようとすると違約金です。
10万〜100万円を請求されるケースがあり、
契約書の複数ページのどこかに小さく書かれていることも珍しくありません。
消費者庁が業者名を公表した実例(2024年)
2024年6月、消費者庁が消費者安全法第38条第1項にもとづき、実際に事業者名を公表しました。
手口は5段階です。
- 電話で「無料で点検できる」「火災保険で修理ができる」と言い、訪問の承諾を取る
- 「点検は無料」を強調して点検する
- カメラで撮影し「このままだと雨漏りする可能性が高い」と不安をあおる。損傷を「雪、ひょう等による自然災害」によるものと説明する
- 「数百万円の見積もりでも保険金が数十万円出るので修理できる」と説明して契約させる
- 実際には自然災害と認定されず、保険金は支払われない
実態は、経年劣化を自然災害によるものと偽って説明していたというものでした。
補足:九州北部でも雪やひょうの被害はありますが、頻度は高くありません。心当たりのない自然災害を理由にされたら、業者ではなく保険会社に直接確認しましょう。
福岡でも同じ相談が出ています
福岡市消費生活センターにも、次の相談が寄せられています。
業者が訪問し「屋根が傷んでいる」と指摘。「保険申請のサポートをするので、先日の台風で被害を受けたことにして、火災保険を利用して修理をしないか」と勧誘され屋根修理を契約したが、保険会社から「補償対象外」と判定されたため解約したい。
センターのアドバイスも明快です。
損害の原因が老朽化なら補償対象外であることが多い/虚偽の理由での請求は詐欺罪に問われる可能性がある/契約前に解約料の条件を必ず確認する。
九州は台風の通り道で、九州北部には平年で年3個前後(年によっては8個以上)の台風が接近します。
国民生活センターは2020年の注意喚起の副題に「勧誘・契約が増える秋台風シーズンは特に注意してください」と明記しました。
台風が集中する8〜9月と、その直後の10月前後がいちばん危ない時期です。
正しい使い方は、たったこれだけ
台風で本当に被害を受けたときは、次の順番で進めてください。
- まず自分の保険会社(または代理店)に直接連絡する。 請求は契約者本人ができます。代行業者は必要ありません
- 被害箇所の写真を撮っておく(日付が分かるとなお良い)
- 保険会社の案内に従って、修理業者に見積もりを取る
- 保険金の請求期限は3年(保険法上の時効)。ただし「期限が迫っている」と急かす業者の言葉は、契約を急がせる手口としても使われます
契約してしまったら
訪問販売・電話勧誘での契約は、書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフできます。 工事が始まっていても可能です。
業者が「手数料は別途必要」と主張しても、まずは相談してください。
| 相談先 | 電話 |
|---|---|
| 福岡市消費生活センター | 092-781-0999 |
| 福岡県消費生活センター | 092-632-0999 |
| 消費者ホットライン | 188(いやや) |
| 日本損害保険協会 保険金に関する災害便乗商法相談ダイヤル | 0120-309-444 |
まとめ
- 外壁塗装(経年劣化)に火災保険は使えません。 使えるのは台風などで実際に壊れた箇所だけ
- 「自己負担ゼロ」をうたう勧誘は、相談が年5,000件を超えた商法
- 手数料は保険金の30〜40%が多く5割の業者も。解約時の違約金は10万〜100万円
- 業者が損害を偽れば、契約者が詐欺の共犯になり得る
- 被害に遭ったら、代行業者ではなく自分の保険会社へ直接
出典
- 国民生活センター [2018年9月6日](https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20180906_1.html) / [2020年10月1日](https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20201001_1.html) / [2021年9月2日](https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210902_2.html)
- [消費者庁 注意喚起(2024年6月27日・事業者名公表)](https://www.caa.go.jp/notice/entry/038391/)
- [日本損害保険協会 住宅の修理などに関するトラブルにご注意](https://www.sonpo.or.jp/news/caution/syuri.html)(2026年7月31日更新)
- [東京海上日動 火災保険の申請サポート業者には要注意](https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/world/guide/casestudy/syuurigyosha.html)
- [福岡市消費生活センター 火災保険を使った住宅修理](https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/shohiseikatsu/life/syouhiseikatusentauhoumupeiji/kurashinohinto_2022/kurashinohinto20221110.html)
- [気象庁 九州北部地方への台風接近数](https://www.data.jma.go.jp/typhoon/statistics/accession/northern_kyushu.html)
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